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                      (写真)里西哲哉編集長

7月23日に月刊『コミック@バンチ』編集長の里西哲哉さまに、
トキワ荘プロジェクト入居者向けに講習会を行っていただきました。
今回はその講義録の最終回を公開いたします。
里西編集長、お忙しいなか本当にありがとうございました。

入居者質疑応答


 「雑誌を新しく作るときにBLとか萌え系とか特定のジャンルを集めることが多いという風におっしゃっていたと思うのですが、個人的にはいち読者としてそういうものに関心がないんですね。今の読者はそういうものに関心がある方が増えてきているのですか。」

 雑誌の傾向をある程度固める利点というのは、読者に対しても当然あるのですが、実は書店に対してのアプローチでもあります。今、電子書籍とかが出てきてはいますが、結局まだまだ書店で紙の雑誌を売るというのが主流です。そこで書店員さんというのは漫画を売るにあたって大きな力を持っている存在です。書店員さんの一言で漫画が売れたり売れなかったりするといっても過言ではないかもしれません。実は、漫画雑誌というのはもう出さない方がいいのでは、という議論があるんですね。収益を上げられないし、無駄なんじゃないかと言われています。以前、『コミック・ガンボ』という駅で手渡しする無料の漫画雑誌がありました。その雑誌は広告があるので無料で配布していましたが、書店で売るわけではありませんので、その雑誌のコミックスが出ても書店員さんが各作品をほとんど知らなかったんです。それで急いで書店に置くようになったりもしました。

ある程度ジャンルを固めるというのは、まず読者がBLでも萌え系でも、固まっていたほうが読んでくれるであろうというのが1つ。一般的な読者層というのは、なかなか把握しづらいところがあってマーケティング的にいくと、BLっぽいジャンルの作品を好む読者であるとか、萌え系っぽい作品を好む男性読者であるとかの方がある程度の実数はわかりやすいです。「そこを抑えておけばいいや」という風に固め打ちをする雑誌ももちろんあるし、あながち間違いではないと思います。まんべんなく広く売りたいという漫画誌というのは今後、どんどん厳しくなっていくと思いますね。また今、雑誌というのは出版社として本当は出しづらいのですが、一種の旗印として出さざるを得ないということもあります。その時にBLとか萌え系とかで固めるというのは、その作品がコミックスになったときに書店員さんがこの雑誌から出ているものだから、ここにコーナーを作ろうとかという風にわかりやすくなるんですね。

「Webとかで漫画を公開している作家さんで優秀な方を出版社がスカウトしているということですが、少し偏った見方をすると、編集者が新人を育てるというよりも、ある程度完成された人を欲しがっていて、持ち込みをしてきて、まだどうなるかわからない人よりも、そういう人の方がほしいのかなと思うのですが…」

 また難しい質問ですね。確かに即戦力で売れる作家を獲得したいというのは、どの編集者にもあると思います。それはどうしようもないことですね。ただ、よく漫画作りって農作業と同じであるというのですが、きちんと種をまいて育てていかないといけないというのも同様にあると思いますので、即戦力だけ欲しいというわけでもありません。

「旧来通りに紙で持ち込みや投稿を続けている人を取り巻く環境は、今どうなっていますか?」

 どの編集部も同じようなスタンスでやっていると思うのですが、Web等の昔はなかった流れが生じている一方で、新人さんが作品を作って漫画雑誌の賞や読み切り掲載を目指すというスタイルは今でもきちんとあると思います。ですので、昔ながらの持ち込み・投稿が減ってきたというよりも新しい流れが起こったというように捉えた方がいいんじゃないかなと思います。もしかしたら綺麗事を言っていて、その流れに食いこまれているかもしれないですが(笑)

 「今の話を受けてなんですが、電子書籍やWeb等の新しい流れが今後主流になっていくのかなと思ったのですが編集サイドとしては、どのようにお考えですか。」

 それは本当に何とも言えませんね。そうなる可能性が高いとは思ってはいますが、電子書籍については3〜4年くらい前から出版社の間でもやはり話題になっています。でも、実は収益として成立っている出版社はほとんどなくて、いろいろなことがまだ様子見の段階です。なので、質問にあったように持ち込みや投稿ではなくWeb等の新しい道筋から作家さんが入ってくるのが主流になるかどうかというのはわからない部分が多いですね。ただ、なくはないと思います。どうしても編集者としては雑誌を売るというよりも、コミックスを売る方向にシフトしてきているので、刹那的に商品になるというのは今後増えていくのではないかなと思います。

「原稿の受け渡しに関して、データでのやり取りは多いのでしょうか。」

 データでの受け渡しは増えてきていて、紙の方が少ないです。半分以上はデジタルでの受け渡しで、少し前まではCD−Rとかに焼いてもらっていたのですが、今はWebにアップする形が多いですね。私が直接、原稿を紙でやり取りしている方は『月刊コミック@バンチ』でいうと、漫F画太郎先生ぐらいですかね。雑誌全体で言うと他にも何人か紙の方がいますが、ほとんどはデータですね。やり方はいろいろあって、原稿にアナログで線だけ入れてそれを取り込んで、トーン処理等をするというのがメインのやり方なのですが、人によってはタブレット上ですべて描くという人も増えてきています。昔一緒に仕事をした方で、背景をポリゴンみたいに3D化して、そこに絵を落とし込んでいくという人もいました。1話分くらいなら新しく描かなくても全部作れますと言っている人もいました。それが2年前の話ですから、どんどんそういう流れにはなっていますね。

「データを使うようになってきたということですが、新人賞に応募するとかでもデータが用いられるのですか」

 5年くらい前までは編集者も「ちゃんと紙でやれよ」とか言ってたんです(笑)前はデータをプリントアウトしてそれを送ってくるというのが多かったのですが、それは技術的に印刷したものが荒くなってしまったりしたというのが理由です。今はそういうことは関係なく、原稿を見ても紙なのかデジタルなのかわからないくらいレベルが上がってきていますので、データ提出というのは新たな流れになってきていますね。

「どの雑誌に持ち込み、投稿をしようか迷っています。普段そんなに雑誌を読んでいないのですが、雑誌を分析したりするなどの努力は必要なのですか。」

 僕が今言うことと、今後どうなっていくかは違っているかもしれないですが現状では雑誌に連載をしてコミックスがでるというのルートがしばらくまだ続くと思っていています。そこがメインである以上はどうしても雑誌が窓口になってしまうので、持ち込みや投稿をする雑誌を分析する必要性は確かにありますね。僕は最近『月刊コミック@バンチ』の編集部員に言っていることがあるんです。雑誌に載っている自分の作品の姿を想像すると共に、書店で担当作品がどこに並んでいるのかを想像してから本を作った方がいいということを言っています。書店ってきちんとジャンルとかを考えて配列されていて、自分の作ったコミックスがどこに並ぶのかということを逆算して考えていくという方法もあるかもしれないですね。そこに並んでいる所が、少年誌の欄なのか、少女誌なのか、コア系の場所なのか。そこから自分が目指しているのは『IKKI』さんとか『マンガ・エロティクス・エフ』さんであるとか、そういうところから逆算していくという手もあります。どちらにしても、雑誌からコミックスになって、本屋に並ぶという流れがしばらく続くのであれば雑誌の傾向とか、自分のやりたいことがどこにはまるのかというのは考える必要がありますね。

「トキワ荘プロジェクトで漫画家を支援している中で、最初の半年間を集中的に事務局で面談をしているのですが、その中で今まで青年誌を目指していたのですが、いったん成人向けの方に行って、それからまた自分のいきたいルートを取ろうとしている人がいます。そういったルートは確立されているのですか。」

 あまり聞きませんが、なくはないと思います。成人からスタートして一般の方に来るという作家さんはごまんといます。有名作家さんもたくさんいますよね。一般向け→成人向け→一般向けというルートは、僕の知っている限りではいないですが、そのルートが間違いであるとは思いませんね。

「その漫画家志望者に聞くと、成人にいきたい理由は成人でやっていくには画力が必要で、そこで力をつけて戻ってきたいということなんです。デメリットが逆に思いつかないので、ないのであればそれでいい気もするのですが…。」

 そうですね。成人向けから上がってくる人って抜群に絵がうまいです。そもそもですが成人向けで需要があるという段階で、その人は絵がうまいという事だと思います。漫画業界は成人作品を描いていたからといって差別されるような世界ではないですしね。なので、成人向けに行くことは特に問題ではないですね。その瞬間その作品を見て編集者は判断するので。あとは、営業的な面で言うと、直近とか過去の作品の部数とかは見られます。取り次ぎというシステムがあって、そこが書店の動向を確認して出版社にコミックスを何部と注文をしてくる仕組みになっていますが、その数字はシビアに見られてしまうので、過去の成人漫画が売れてないと、一般向けでの次の作品もそれに見合った部数にされてしまう可能性はありますね。逆にいえば、一般の漫画で5,000部しか売れていなかったのに、成人で50,000部売れたとなれば、それはステップになりますので、戻ってきたときにプラスになりますね。成人向けでやっていたかどうかよりも、実績を出せばいいということですね。

完。

上記の内容など、本講習会に関するお問い合わせはtokiwaso@newvery.jpにお願いいたします。


 
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