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                      (写真)里西哲哉編集長

7月23日に月刊『コミック@バンチ』編集長の里西哲哉さまに、
トキワ荘プロジェクト入居者向けに講習会を行っていただきました。
今回はその講義録の第2回を公開いたします。
里西編集長、お忙しいなか本当にありがとうございました。

Q.「『週刊コミックバンチ』と比べて『月刊コミック@バンチ』は作家の起用方法に関して何か変わった部分はあるのでしょうか。」
 
これも我々の雑誌の話に方針の話です。さっき、才能の話をしましたが、やっぱり何か光るもののある作家さんを使いたいというのが、今の『月刊コミック@バンチ』のコンセプトで何か1つ読者の想像を超えてほしいというのがありますね。前の『週刊コミックバンチ』の時は一般受けする、より多くの人にわかりやすく構成された漫画を望んでいました。それというのはテレビと同じなのです。テレビというのはあまりとがっていない、とがり過ぎてはいけないという面があります。無料で多くの人が見られるので、一般受けを重視する必要があります。

旧『週刊コミックバンチ』も『週刊少年ジャンプ』を制作していた方々が作り出した雑誌で『少年ジャンプ』は何百万部もの読者に向けた作り方をしなければならなかったという面がありました。それを行うと色々な部分を犠牲にしなければならないということが出てきます。それでも600万部売れているメディアの中で人気がでれば、それだけでものすごく大きな宣伝媒体なので、コミックスも売れるというサイクルが出来上がっていたのですが、『週刊コミックバンチ』になった段階で部数としては10〜20万部という数字だったので、その部数で一般受けを狙う作り方をしてしまうと、毒にも薬にもならない作品が出てきてしまいます。あまり個性がなくて、雑誌を読んだら面白いが単行本を読んだらあまりおもしろくないという作品が少し増えてしまったかなという風に思っています。今の『月刊コミック@バンチ』でそういう風なってしまうのはよくないなと思っていまして、やはり何か1つ読者の想像を超えていないと物は売れないと感じています。スポンサーが付いていて、無料で見ることのできるテレビと違って、漫画は読んでもらうのにお金を払う必要がありますので、それ相応の価値がないと買ってもらえません。

相応の価値とは何かというと、読者の想像を超えることだと思います。ありきたりのストーリーなり、絵なり、どこかで見たことのあるような作品はお金を払って見ようとする人は少ないと思います。そういう意味で言うと、我々の『月刊コミック@バンチ』では何か一つなんでもいいから想像を超えていてほしいという言い方はしています。その想像というのは例えば、絵柄が圧倒的に上手であるとかですね。絵柄が上手であれば、それだけである程度売れたりということもあります。そのほかにはネーム(ストーリー)が圧倒的に上手であるとか、展開が上手であるとかですね。例えば、福本伸行先生とか絵よりもネームまわしであるとか心理戦というのが秀逸ですよね。あとは、取材力があるとかですね。『軍靴のバルツァー』もそうなんですが、作家さんが鉄砲とか大砲とか19世紀のドイツの物をすごくエネルギーを注いで調べ上げて描いているんですね。そこには商品価値になる要素があるわけです。僕は森薫先生の作品が好きなのですが、作品を見ていても、あの時代のお話が好きで大変な労力を割いて絵にしているというのはすごいなと思いますね。漫画というのは作るだけで大変な労力であるとは思います。ただ、これだけ漫画があふれている時代なので作るため以外の労力をどれだけ払うかというのが大事になってくると思います。とにかくどの雑誌ででも、何か1つ想像を超えているというのは必要になると思います。

Q.「『月刊コミック@バンチ』さんでは基本的には作家さんの個性を伸ばす方向でしょうか?」

作家さんの個性を伸ばした方が早道ですね。雑誌よりもコミックスを売るにはその方が速いかなと感じています。


Q.「週刊誌の場合は、その辺はどうなのでしょうか?」


週刊誌は、漫画家自身が考えている時間が少なくなってきます。毎週締め切りが来るからです。毎週20ページとか描くと速い人でも大体4日ぐらいはかかります。遅い人は5日ぐらいかかってしまいます。そうすると休みながら次のネームを描かなければならないので、取材とかは一切できないですよね。そうなると編集者が資料とかを集めたりとかそういう作業しなければいけないので、どちらかといえば編集主導の方向に持っていかざるを得ないかなと思いますね。


「その辺が週刊誌と月刊誌では全然違うという事ですか?」


違いはありますね。週刊誌はペースとかを考えると、どうしても少年誌になってしまうのかなという感じはあります。先ほど言った『漫画ゴラク』とか『漫画サンデー』とかは例外としてありますけれども、大人が読んでコミックスが売れるというのはどちらかといえば月刊誌での連載の方がトレンドとか見えてくるのかなという気はしています。ただ、大手の少年誌は月刊誌でも別ですよ。今日、参加されている皆さん(新人漫画家の方)は持ち込みとかはされますか?


「持ち込みと投稿が多いですね。」


何度も言いますが、最近の月刊青年誌の大きな流れとしては、編集者が自分から作家を捕まえに行きます。今まで通り持ち込みもうれしいし、漫画賞もきちんと審査して新しい才能を発掘しようとしていますが、編集者側から働きかけるというスタイルが増えてきています。例えばコミティアの出張編集部とかに大手の会社が編集部を構えてきたというのは最近の流れです。あとは、web漫画とかですね。例えばpixivであるとかそういう媒体で連載している作家さんをそのまま持っていってしまうとか。そういう意味で言うと我々もそうなのですが、一般の雑誌も漫画家が来るのをただ待っているという感じではないです。どちらかというと、自分から捕まえに行くという方向にシフトしているのかなと思います。確かに大物作家を連れてこようという動きをやっていないわけではないのですが、雑誌を作っていて自分の雑誌から出た新人を大物にするというのが最大の命題ですので編集部がアンテナを張って、新しい才能を探しているというのが1つの流れとしてありますね。


Q.「漫画家志望者にとって少年誌と青年誌では持ち込むときに注意すべき点が違うのでしょうか?」


先ほどジャンルの話をしましたが、ジャンルというのは私でもピンと来ていないくらいに曖昧なものに今はなってきてしまっています。ですので何ともいいづらいのですが、例えばこの中で週刊少年誌に持ち込まれている方はいますか?(参加者の反応を見て)…あまりいないみたいですね。皆さんはどの雑誌に持ち込んでいるのですか?


「今日参加している方は『コミックビーム』『スーパージャンプ』『ヤングマガジン』『マンガ・エロティクス。エフ』などです」


みなさん結構コア系に持ち込んでるんですね(笑)私が今日来ているからそういうコア系の人が参加者に多いのかもしれないですが。みなさん少年誌というわけではないのですね。もし、週刊少年誌に持ち込むのであったら、正直、編集者の言うことをよく聞くのがいちばん良いかもしれませんね。ただ、今聞いたところの雑誌だと独自性とか個性というものを編集者に見られる雑誌なので、作家としてのキャラクターを前面に押し出して、自分の武器をしっかり磨いてという形でいいのではないかと思います。


Q.「ネームで見てくれる担当さんがいるという方も結構多いのですが、そこから先に掲載まで進みにくいという風に感じているのですが、それはどういうところに要因があるのでしょうか?」


実際にネームを持ち込んでいて、なかなか進まない人っていますか?…結構いるんですね。僕の感覚から言うと、何度もやり直さなければならないネームは一度切り捨てて、違うことをやった方がいいですね。その雑誌に応じた内容でいいと思いますが、まったく新しいことをやった方がいいと思います。

これは僕のやり方ですが、ネームを持ってきて担当の1番最初の反応でわかるんですね。最初から何の修正もなく即掲載というのは基本的にはないですが、ネームを担当が見て、どういう反応をするかで大体わかるのではと思うのです。これはこう伸ばしたらいいとか、発展的にここを直したらよくなるといった雰囲気だったら、その方向に直せばいいと思いますが、水道管の水漏れを直すような作業に入ってしまうと大体ドツボにはまってしまうので、駄目なものをよくしようという風に考える時間があるのなら、切り替えて、違うストーリー、違うキャラ等展開をまったく変えてどんどん新しいものを作った方がいいのではと思います。担当さんがいい方向にする直しを言っているのであれば、それで良いのですが、一生懸命取り繕う直しをしようとしているならば、これは一度置いておきますと漫画家の方から言った方が逆に良かったりするかもしれません。

担当の方も、どんなに偉そうな人でも漫画家が一生懸命描いてきたものを否定するのには結構エネルギーが要ります。それで、その場では漫画家のネームを全否定できない人も多いから、「これこれこうしたらいいじゃないの」という風に言って、また何ヵ月後に持ってきてという風に言う人もいると思うんですが、編集者も色々な新人さんを抱え、他の仕事も当然しているので結構いい加減な受け答えをする人も少なくないのではと思います。だから、そこの見極めは漫画家として大事じゃないのかなと。担当が本気でこれはいいと思ってくれている、それでもっと良い方向に直そうとしてくれているのであれば、乗っかればいいし、そうではないという場合は新しくするしかないかもしれません。そういうことをもっと意識した方がいいと思いますね。


Q.「『月刊コミック@バンチ』で連載が決まるような方は、1つのネームを何度も何度も直したりということではないということでしょうか?」


結構、物事が決まるときというのは早いんですよ。編集者がいけると思うものは早いですし、例えば企画ありきでスタートしているものであれば別ですが、新人が持ち込んだ作品で何度も直しが入ってしまう作品は基本的に厳しいというのが現実的な話です。早い時は本当に早いですよ。いいと思ったら、あっという間に話が決まるということも多いので、結構そのあたりの見極めというのは大事です。だから漫画を描くことって労力がいるし、ネームを描くこともすごく大変な作業であると思いますが、編集者に見せて雰囲気的にダメそうだけど、編集者に言われているからダラダラ直しているというのは良くないと思います。それだったら新しい作品を早く作った方がいいと思います。その雑誌でもいいですし、違う雑誌でもかまわないので、どんどん作っておった方が結果的に時間の無駄にならないのではと思います。
 
Q.「『月刊コミック@バンチ』さんで抱えていらっしゃる新人の作家さんはどれくらいいらっしゃるのでしょうか?」


正確な数値は申し上げられませんが、頻繁にやり取りする新人の作家さんは10人くらいですかね。ただ、付き合いがあるというレベルも含めれば100人を超える編集者もいますし、その時々ですね。編集者も会社員なので、漫画編集者が何で評価されるかといえば、連載を立ち上げてコミックスをどれだけ売るかということなります。それを計算して編集者も動いているはずなんですね。新人作家の皆さんには失礼な言い方になるかもしれないですが、編集者にしてみれば、これは売れるかどうかというのを判断して動いていると思います。自分はこの編集者にとって、どういう立ち位置なのかということをある程度見極めていくという気持ちが大事なんじゃないですかね。


Q.「今回トキワ荘プロジェクトでコミティア97に出す同人誌の作品について評価をしていただきましたが、その際に評価する優先順位は「キャラクター」「構成」「絵柄」「独自性」という順序でした。これはなにか理由があるのですか?」


キャラが立っているというのは小池一夫先生が言うところ漫画の1番の王道ですね。キャラクターにいかに魅力があるかというのは、ベテラン、新人問わず1番大事なことかなと思っています。私は、本当であったら「キャラクター」の次に「絵柄」か「独自性」を持ってくるのですが、今回はまだプロではない新人作家さんの作品という事で「構成」を2番目にしました。これは最低限の基本というのができているかできていないかということが新人にとって大事である理由からです。起承転結とかそこまで厳密には言わないのですが、物語とかを含めてきちんした構成があるかないかというのを重要視しました。わかっていて構成を崩してるのなら良いのでが、わからずに崩れているということであれば話は変わってきます。

3番目の「絵柄」というのも本当は「独自性」を先に出したいのですが、漫画というのは絵で判断されるというのが相当大きくて、いわゆるジャケ買いをされることも多いので、3番目に「絵柄」を選択しました。最後に「独自性」です。僕は、本当はこれを一番見ています。先ほども言った通り、漫画としてのキャラクター、漫画として自分は絵で勝負するのか、ストーリーで勝負するのか、取材力で勝負するのか、そういうところを持っている人かどうかという事です。だから、この「独自性」は全ての項目に関わるこなのかもしれません。


Q.「漫画のキャラが立っているというのは具体的にはどういうことなのでしょうか?」


皆さん、編集者にキャラを立ててとか言われますよね。僕がお世話になった堀江信彦さんには、「また会いたくなるキャラ」を作れとおっしゃっていましたね。1度だけでなく、毎号会いたくなるようなキャラを作れといわれました。それは本当にそうだと思いますね。


Q.「独自性というのはどういったものでしょうか?」


「独自性」に関しては何度も言いますが、作家さんのキャラクターです。「絵柄」「構成」「取材力」など多角形のバロメーターがあったときに、すべてが満点だったらそれはそれに越したことはないのですが、なかなかプロでもそういう人はいないです。やはり、すべてを満点にするのは難しいです。でも例えば、「絵柄」が120点だったら「構成」が40点でもいいと思うんですね。もちろん足りないところを補っていくのも大事なのですが、まずは得意なことを作ることです。1番良くないなと思うことはきれいに60点みたいな感じになってしまうことです。そういう作家さんになるよりはどこか突出したところを1つでも持っておいて、それを自分の自信にした方がいいと思いますね。それは「絵柄」でもいいし、「構成力」「取材力」でも色々な要素があると思います。『GANGSTA.』はちょっとストーリーがわかりづらいかもしれませんが、絵柄とか雰囲気が良いですね。『軍靴のバルツァー』は時間とお金をかけて自分で調べ物をするという、そういうことでもいいと思います。『あねちゅう!』は少し変態的な、いかれちゃっている部分があるのですが、それが1つのキャラクターです。やっぱり何か1つ突出していないと売れる作品にはならないのかなと思います。平均点で売れるというのはなかなかないと思いますね。


Q.「別のインタビューで10年前よりも才能のある作家が増えているとおっしゃっていました。これはどういったところからそうお考えですか?」


これは先ほどのコミティアの話に戻ってしまいますが、皆さんみたいにプロ漫画家になりたいという方もいれば、メジャーデビューをしたいわけではないけれども表現はしたいという人も増えてきています。表現する場所は以前よりも増えて来ました。昔は漫画を描いていたら商業誌に載せてコミックスにするという方法しかなかったのですが、今はコミティアとかコミックマーケットとかを含めて同人誌を出すという方法があるし、ネットとかで個人でも自分の作品を発表できる媒体が出てきました。そういう意味で言うと、色々な才能を持った方が増えてきているのは間違いないかなと思います。逆にプロ漫画家を目指す人以外に才能のある人が増えてきたという事ですので、皆さんにしてみればライバルが増えているのかもしれません。出版社側からすればいいことなのですが、漫画家志望者に取ってはライバルが増えてきている状況です。


Q.「才能を持った人が増えてきているということですが、その中でプロ漫画家になりたい人は増えているのでしょうか?」


どうなんでしょうね。統計を取ったわけではありませんが、減っているのかもしれませんね。出版社が出している雑誌に掲載をしてデビューするという道筋を大学にいくために高校、中学にいくと違う感覚でとらえてきている人が減って来たように思えますね。漫画家になるには決まった道筋があるわけではないですし、発表媒体が増えてしまった事で漫画家も色々な形の露出の仕方が増えてきていますね。




次回へ続く。

上記の内容など、本講習会に関するお問い合わせはtokiwaso@newvery.jpにお願いいたします。


 
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