9月11日に『コミックビーム』副編集長の岩井好典さまに、
トキワ荘プロジェクト入居者向けに講習会を行っていただきました。
その講義録の最終回を公開いたします!
岩井副編集長、お忙しいなか本当にありがとうございました。

講義内容:漫画家としての心構え(3)
講師:コミックビーム岩井好典副編集長

1-7 今後の漫画業界
 最後に、ちょっときつい話をします。
 漫画は、あと何年かでなくなるかもしれない、消えてしまうかもしれない、ということです。
 1995年〜1996年が出版業界のピークだったんですね。資料を見ると、少年少女向け漫画誌の総発行部数は、1995年の時に8億冊あった。それが去年2009年、4億冊に半減している。この15年間で、マーケットが1/2に縮小した。この減少傾向でいくと、あと4、5年でマーケットが消えてしまう可能性がある。
 シンプルに言うと、漫画が売れなくなってるんです。漫画に限らず、本が売れなくなっている。音楽CDや映画のDVDはもっと売れていないから、実は出版は頑張ってるんですが、それでも確実に売れなくなっている。そんな時代に、漫画家を目指すということについて、皆さんはもっと真剣に考えたほうがいい。
 昔はこんなこと言わなかったんですよ。「青春を少し夢に賭けてみるか。じゃあ、まずは5年がんばれ。5年修行すれば、上手くいくかもしれない」とか言ってたんです。その頃は、「5年後に漫画がなくなっているかも」なんて考えることはなかったから。5年間苦労すれば、お前が身につけてきた技術を引き受けてくれる場所があるよ、って思っていたんだけど、今は、もしかしたら5年後に漫画はないかもしれない。
 まあ、5年間で漫画という表現自体がなくなるようなことは、きっとないでしょう。本がなくなることは、きっとないけれど、少なくとも、雑誌はかなりの確率でなくなる、少なくとも今とは大きく形を変えている可能性が高い。
 雑誌の売り上げが落ちているのは事実ですから、これは仕方ないですよね。電車に乗ったときに、周囲を見てください。雑誌読んでいる人、ホントにいないから。新聞を読んでる人、文庫や単行本を読んでる人は、まだチラホラいます。でも、雑誌を読んでいる人はほとんどいません。圧倒的に多くの人が、携帯を見ていますよね。メールをしているのか、ニュースサイトやツイッター見てるのか知らないけど、とにかく携帯。皆さんもそうでしょ、みんな携帯だよね?だから電子書籍に移行していくってのもあると思うんだけど、少なくともそうなっていったら、今の雑誌や書籍の形態をもとにした漫画表現は、大きく変わらざるをえない。
 これからの未来がどうなるかはわからないけれど、とにかく、漫画というメディアがドラスティックな変革期にあるのは事実です。みなさんが今まで読んできた漫画というものが、何年後かには、現在のものと変わっている可能性が高い。
 そういうことを含めて考えても、最初に言ったように、やっぱりもう一回、自分に問いかけたほうがいいと思う。

 なんで漫画家になりたいの?
 なんで漫画家じゃないといけないの?

 漫画家になる道は、これまで以上にきつくなってくる。媒体がデジタル化されると、これまでとは状況が変わってしまうでしょうから。雑誌だったら、目当ての漫画があって買ったら、他の漫画を好きじゃなくても読むでしょ、もったいないから(笑)。読まなくてもいいんだけど、とりあえず目に入るし、知る機会がある。でも、デジタルっていうのはそうじゃない。検索して、自分の好きな漫画をダウンロードする。そうすると、新人作家と読者の出会いの機会っていうのが、変質していかざるをえない。新しい才能が出にくくなる可能性が高い。だって、みんな知らないものにお金を払わないでしょう?雑誌一冊買えば、「ああ、こんな漫画あるんだ」って知らない漫画を読むかもしれないけど、デジタルだと、そういう広げ方がしにくくなる。そんな状況で、皆さんのような新しい人がデビューしていくには、どうやったら良いか。例えば、ブログに載せていくことによって、編集を介在せずに出て行くとか、新しい発表の仕方がいろいろ出てきているから一概には言えないんだけど、少なくとも、皆さんがこれまで知っている漫画というメディアはここから大きく変わっていかざるを得ないんです。
 ぶっちゃけ、みんな、あんまり漫画雑誌を毎号買わないでしょ?単行本買うでしょ?音楽CD買う人っはまだいるのかもしれないけれど、ダウンロードしちゃう人の方が多いでしょ?そういうふうに、意識が、マーケットのシステムが、以前と変わってしまっている。それはもう、僕自身がそうだから仕方がない。
 そして、プラットフォームや出力ディバイスが変わると、そこに載せられるコンテンツの内実が変容することは不可避なんです・・・って、なんか嫌なビジネス・アドバイザーみたいな言いぐさですね(笑)。
 例えば、音楽なら、CDの前にアナログのレコードがあったことは知ってるよね。A面とB面があった時代。そういう頃は、音楽アルバムの構成は今と違っていたんです。A面の1曲目と最後、B面の1曲目と最後、そこにどんな曲を置くか、それが構成的に大切だったりした。でもCDになったら、A面もB面もなくなっちゃった。メディアの変化で、作品の構成(質や意味)が変わった。そういう「変化」はたくさんある。例えば、以前はシングルカットされる曲って、CDの何曲目かに入ってたんだけど、今は1曲目に入るんですよね。なぜなら、みんなが視聴して買うかどうか決めるようになったからなんです。視聴はとりあえず1曲目を聴くことが多いから、シングルカットするようなキラー・チューンを1曲目に入れている。他にも、今はオープニングにサビがくる曲が多くなっている。これは、着メロで使うことを考えておかないと、ヒット曲になりにくいからですね。だって、Aメロ、Bメロ、サビなんていう構成の曲だと、着メロにしたら、なんの曲か全然分からないじゃない?呼び出し音がサビになるまで待っていたら、なかなか電話を取れない(笑)。頭を聴いて、すぐにあの曲ってわからないと、みんなダウンロードしてくれないんですね。
 つまり、マーケットが変遷していったり、受け取り側の機能が変化していくと、そこに乗っかっていくメディアやコンテンツの質も変わっていく、ということです。
 だから、皆さんが知っている漫画も、4〜5年後には変わってしまっている可能性が高い。あなた方が子供の頃に読んで好きだった漫画っていうものをそのまま描き続けていたら、今はもう受け入れてもらえないかもしれない状況にある。
 恐ろしいことに、漫画がこれからどんな風に変わっていくかは、まだ分からないんです。分からないけど、でも「変わる」ことだけは、確か。
 今、漫画という表現は、非常に大きな変換期にあります。それを覚悟して、皆さんには漫画家を目指していって欲しいと思います。

1-8 最後に
 ぼくが携わっているコミックビームは、とても小さな雑誌です。あまり知られていないかもしれない漫画ばかりが載っている、本当に小さな雑誌なんだけど、その中から、例えばヤマザキマリさんの【テルマエロマエ】のような大ヒットが生まれました。さっき名前が出た、しりあがり寿さんの【弥次喜多 in DEEP】も、宮藤勘九郎さんが初監督として、TOKIOの長瀬智也さん主演で映画化してくださったりね。小さいながらも、そういう良い作品を載せてくることが出来たから、今年の12月で、創刊15周年になります。
 今日ここに集まってくれた漫画家を目指す皆さんが、いい映画を観て、いい小説を読んで、いい音楽を聴いて、そして、いい映画を読んで、漫画の感覚や物語の感覚を研ぎ澄ましていったら、その感覚に響くような優れた漫画が、きっとコミックビームには載っていると思います。
 そんな優れた漫画を、これからのコミックビームに描いてくださるのが、この中の誰かだったりしたら、ぼくはとっても嬉しいです。
 今日は、どうもありがとうございました。

完。

上記の内容など、本講習会に関するお問い合わせはtokiwaso@newvery.jpにお願いいたします。

 
この記事のトラックバックURL
ボットからトラックバックURLを保護しています