9月11日に『コミックビーム』副編集長の岩井好典さまに、
トキワ荘プロジェクト入居者向けに講習会を行っていただきました。
その講義録の第2回を公開いたします!
岩井副編集長、お忙しいなか本当にありがとうございました。

講義内容:漫画家としての心構え(2)
講師:コミックビーム岩井好典副編集長

1-4 プロとアマチュアの差
 皆さんのトレーニングの第1歩として、まず最初にすべきことは、意識を変えることだと思うんです。漫画家を目指すのなら、漫画を読むときの意識を変えて欲しい。
 1回目、つまり初めて読むときは、自分が好きな漫画を、普通に読者として、この漫画好きだな、面白いなって思って読んでもらって構わない。でも、2回目と3回目と再読するときに、なんで私はこの漫画を面白いと思ったのか、を考えながら読んで欲しいんです。ここの意識の転換が大切。好きな作品、他人の作品を、きちんとプロとして「どうして面白いんだろう?」と意識しながら見て、自分の描いている作品はきちんとアマチュアとして見る。「本当にこれ面白いの?」って。この意識のチェンジをまずして欲しい。
 多くの持ち込みに来る人とか新人さんは、他人の作品を読むときは、「うわー、面白れー。『ジョジョ』面白れー」みたいに読者意識バリバリで読んで、自分の作品を読むときは、「導入がこうで、キャラクターをここで立てて、山がここにあって、24ページで終わってるからOK」とか、プロっぽく見てしまう。そうではなくて、意識を逆にしてほしい。
 他人の漫画を読むときに、プロとして読んでほしい。それで、自分の漫画の時には、出来る限り意識をアマチュアにしてほしい。
 
それが、まずスタートライン。なかなか難しいんだけどね。

1-4-1 漫画家は手品師
 松本大洋さんって漫画家がいるんだけど、知ってるかな?知ってる人がほとんどですよね。【ピンポン】や【鉄コン筋クリート】など、とてもユニークな個性を持った優れた漫画家さんです。松本さんが以前インタビューに答えていて、「漫画家ってのは、インチキ手品師なんです」って言っていたんですね。インチキっていうのは、松本さん一流の照れだと思うんだけど。だって、手品師はみんなインチキだから(笑)。その松本さんの言葉はどういうことかというと、漫画には、「タネも仕掛けもある」ということなんですね。
 作品を読んで、読者の心が動いたなら、そう動かそうと思って、作家がタネを仕掛けている。そう松本さんは言っている。さらに彼は、自分の漫画の読者は、作者の松本大洋を超能力者だと思いがちだ、とも言っていました。ここにいる多くの方々もきっとそうだと思うんですよね。漫画を描くっていうのを、どこかで超能力だと思っている。「面白くなれー!」って念を込めながら、漫画を描いてしまいがち。だけど、それでは面白くならないんです、ちゃんとタネを仕掛けないと。
 Mr.マリックが、500円玉にたばこを通したりするでしょ。あれを見た時に一般の人は、「わぁー、すごーい、なんでなんで!?」ってなる。でも、あなた方は手品師にならなきゃいけないんだから、マリックの手品を見たら、「今どうやったんだろう?」とか「あれなら出来るわ」とか、タネや仕掛けを見抜かなきゃいけないんですよ。「わー、すごい!面白い!」って漫画見て言ってるのは、「わー、すごい!不思議!」って手品見て言っているのと一緒なんです。
 手品にどういうタネやトリックが仕掛けられているかを解明して、そのトリックを自分もできるようにならなければ、手品師になることはできない。漫画を読むときに、そこにどういうトリックを仕掛けてあるかを見抜かないと、あなた方は「手品師=漫画家」には、なれないんです。そこにあるトリックを見抜いて、それを実現するためには、例えば指先をどう鍛えれば良いか、みたいんいトレーニングをして、そのテクニックを身につけなければ、「超能力者」になるしかなくなってしまう。でも、「10円玉に、たばこ通れー!」ってどんなに念じながらやったって、タネも仕掛けもなければ、通らないでしょ(笑)。それと同じなんです。どんなに「伝われー!」って思って漫画描いたって、読者には伝わらない。ちゃんとタネを仕掛けないと。
 プロの「タネ」や「仕掛け」を見抜くようにする、そういう意識をちゃんと持って漫画を読むこと、その意識の転換がちゃんと出来るようになると、多分皆さんが描く漫画も、少しずつ変わってくると思います。

1-4-2 基本の姿勢
 さらにベーシックな話をしましょう。
 古谷三敏さん(【ダメおやじ】【BARレモンハート】などの漫画家)がアシスタントとして師事した手塚治虫さんについての思い出を描いた【ボクの手塚せんせい】という漫画があります。その中に、『一流とは』というエピソードがあって、赤塚不二夫さんが新人だった頃、手塚先生に、「どうやったら面白い漫画が描けますか?」と訊ねて、「立派な漫画家になるには、一流の映画を観なさい、一流の小説を読みなさい、そして一流の音楽を聴きなさい。」と手塚先生が答えるんですね。
 これはつまり、物語の感覚を鍛える、あるいは、表現するということの感覚を鍛える、ということですね。
 表現する感覚、物語感覚っていうのは、運動神経みたいなものなんです。反復していくことで、研ぎ澄まされていく。
 「なんであの時出来なかったのかな」と自問自答を繰り返し、「今度はこうやってみよう」「ああやってみよう」と試行錯誤する中で、鍛え上げられていくものなんですね。そうやって、特別な感覚を養わないといけない。
 ぼくは、あまり漫画だけを読んで漫画を描こうとしないほうが良いと思うんです。最近は、漫画を読んで漫画を描こうとする人が割合多い。もちろん読むこと自体はいいんですよ。でもそれだけでなく、やはり、いい映画・小説・音楽、あるいは、絵画やイラストレーションを見る。今の時代だったら、ゲームをやったりね。とにかく、優れた表現に数多く触れて、「表現感覚」「物語感覚」をきちっと養う。それを普段から意識していってください。それが、あなたが作る漫画にフィードバックされていきます。これはもう、漫画の神様である手塚治虫が言っているんだから、間違いないですよね(笑)。

1-5 努力なくして漫画家にはなれない
 何度も言うように、漫画家という仕事は、本当にきつい仕事だから覚悟して欲しい。さらに、どんなに努力しても、報われないことはある。スポーツ選手ってそうでしょ。どんなに憧れたって、ほとんどの人はイチローにはなれない。まあ、イチローはきっと誰よりも努力してると思うんですが。とにかく、スポーツ選手はまさにそうですよね。才能が必要で、努力が必要で、まあ運っていうのはいるのかな。いるのかもしれないな。かなり才能があるピッチャーだったとしても、松坂やダルビッシュと同級生で同じ野球部だったら、やっぱりきついものがあるでしょうから。
 表現するっていうのは、漫画に限らずなんだけど、スポーツと同様に、才能とか運というものがありますね。でも、どんなに努力しても報われないかもしれないけれど、才能があれば努力しなくても大丈夫、なんてことはないんです。
 ぼくは本当に沢山見てきました。才能があるのに、努力や精神力や運がなくて、潰れていく人を。

1-6 質疑応答
岩井:「なにか訊きたいことありますか?」
入居者1:「少女漫画にずっと投稿していると、絵柄とか教育される感じなんですけど、青年漫画って全部バラバラな印象があります。それでもやっぱり雑誌色ってあるんですか?」
岩井:「当然あります。雑誌によって様々ですけどね。とは言え、少女漫画だけでなく、少年誌や青年誌でも、最近は結構絵柄が画一化され始めているかもしれませんね。ぼくは、雑誌は本来名の通り「雑」な「誌」で、一誌に雑多なジャンルが混在しているほうが面白いと思うのですが、最近の読者は、ある程度ジャンル分けされているものを好む傾向があります。そういうマーケットでは、ターゲットを絞ってジャンルを分けたほうが、漫画として売れやすくなってきていますから、絵柄も同じ方向性のものを揃えるようになっている。でも、コミックビームはあまりそういう形での絞り込みをしないですね。とは言え、ビームにもビームなりの色はあると思いますよ。かなり変な色かも知れないけど(笑)」


第2回目は以上です。
最終回は、12月13日にアップ予定です。 
上記の内容など、本講習会に関するお問い合わせはtokiwaso@newvery.jpにお願いいたします。


 
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