昨年の12月8日に『週刊少年マガジン』副編集長の千葉素久さまに、トキワ荘入居者向けに講習会をしていただきました。また千葉素久さまには、講習会に参加した入居者の原稿を個別に指導していただきました。今回はその講義録を公開いたします!

千葉副編集長、お忙しいなか本当にありがとうございました。

(1)はじめに

Q.講師の千葉素久さんの経歴を教えてください。
A.もともと漫画好きで、漫画のある出版社を学生時代に志望。講談社に就職後、初めて担当した漫画雑誌はヤングマガジンで、3年間担当。その後は週刊少年マガジンに移り、7年が経ち、今なお続いている。現在は週刊少年マガジンの副編集長。

 
Q.どういう風にやれば漫画家になれますか?
A.成功した漫画家の数だけ漫画の作り方がある。こうしたら面白い漫画が作れるというのは確かにあるが、人によって違うので、それを自分でどう見つけるかがポイント。 



 
(2)週刊少年マガジンについて

Q.MGP(マガジングランプリ)について教えてください。
A.毎月送られてくる作品を週刊少年マガジン編集者の中から10人ほどで読む。1つ1つの作品に対し、それぞれの編集者が「〇」「△」「×」をつける。10人で見て、1つでも「△」以上があれば検討対象になり、全員でその作品について議論する。
 
佳作以上には掲載権があり、受賞作品が一定レベル以上ならそのまま掲載。それ以外は、能力はあるので、掲載用の作品を新たに描いてもらう事になる。また、MGPで引っ掛かった人には担当がつく。

Q.本誌の掲載作品について編集部ではどのように判断してしますか?
A.主な判断基準はアンケート。ハガキと携帯とで若干傾向が違う。もちろんアンケートが絶対に良いとは言えないが、つまらない作品が上位になったり、逆に面白い作品が下位になったりすることもないので大雑把にはわかる。
 週刊少年マガジンの読者層は20代前半が多いので、その層の意見を多めにしてランキングをつける。 新人の掲載作品が上位になれば次のステップに進めるが、いきなり新人が上位になることは本当に極稀(50人いて1人いるかどうか)。なので次は編集会議で決定する。その後は編集者にネームを出す作業の繰り返しとなるが、この段階までは、がんばれば行ける。ここからが本当の勝負。

 
Q.アンケート以外の判断基準もありますか?
A.たとえば連載作家であれば、単行本の売上も参考にしている。アンケートは良くないが、単行本は売れる作家もいる。単行本が売れていれば問題はない。
 なお、編集部としても、アンケートを判断基準にするやり方が本当に良いのか、他に何か手はないのか、常に考えている。 

Q.連載までに新人はどのようにネームを作っているのですか?
A.ネームはまず3話くらいまで作る。そこで連載にするか、読み切りにするのか判断する。また掲載誌についても、本誌ではなくまず増刊誌の「マガジンSPECIAL」という場合もある。

 
Q.漫画家と編集者との関係について教えてください。
A.週刊少年マガジンは他誌よりも編集主導型。一方で講談社には、アフターヌーンなど実験的な事をやる漫画雑誌もある。 



 
(3)講師・千葉素久さん担当作品について 〜ヤングマガジン編

Q.しげの秀一先生の『頭文字D』について教えてください。
A.たった1人で作品をつくるのが難しい中で、数少ない、たった1人で世界観をつくっている先生だと思う。(他の各品だと、編集者なり誰かしらブレーンがいる場合がほとんど)
 編集が作品に手を加えることはほとんどない。たまに先生に打ち合わせをやろうと言われると、編集者を最初の読者として意見を聞いてくる程度。(とはいえ、しげの秀一先生も、最初の頃から、1人でつくっていたわけではないと思う) 

Q.平本アキラ先生の『アゴなしゲンとオレ物語』について教えてください。
A.自分(千葉素久さん)は初期はサブの担当で、メインは自分の先輩だった。 先輩は、すごい人で最初のネームの段階で1コマ1コマ検討していく完全な編集主導型だった。打ち合わせに12時間掛かる事もあり、平本アキラ先生が直して来たものを再度チェック。正直なところ、我慢強い漫画家さんではあるが、本人は当時辛かったと思う。それでもショート漫画としては売れていて、成功していたので、このやり方を続けていった。
 ちなみに徐々に変化し、今は割と作家性を反映した作品になっている。振り返ると最初のやり方は辛かったが、本人にとってプラスになっていると今では感じる。 

Q.氏家ト全先生の『妹は思春期』について教えてください。
A.別冊ヤングマガジンにて、代理原稿としてデビュー。その際、人気が出たので連載としてスタートすることに。ギャグは、人によってポイントが違うので、1つ1つ議論していてはキリがない。なので、担当である自分の面白いと思うものに合わせてもらった。(自分が編集者の中で最初に、『妹は思春期』は面白いと言った経緯もあり…)もちろん他の人が面白いと思うものをボツにするリスクはあるが、それでも「1人の読者に面白いと言わせられたら、その後ろには何万人・何十万人の読者がいる」ものである。
 具体的には、だいたい30本ほど4コマ漫画を描いてもらって、担当である自分がクスッと少しでも笑ったものは残す。それ以外の反応のないものはボツor修正。実は氏家ト全先生は地方の作家さんで連載後も上京しなかったので、顔を合わせた細かな打ち合わせができなかった。なので、前述の通り、面白いかそうでないか、というシンプルな判断の仕方になり、かえってそれが良かったのかもしれない。4コマ漫画として成功しているので作家も、このやり方に従ってくれた。

 


 
(4)講師・千葉素久さん担当作品について〜週刊少年マガジン編

Q.大島司先生の『シュート!』と月山可也先生の『エリアの騎士』について教えてください
A.ともにサッカー漫画であり、原作者主導の作品である。とはいえ、100%原作に忠実なわけではなく、漫画家さんは自分で手を加えている。原作者は漫画家のアレンジをうまく取り入れるプロデューサーでもあり、担当した原作者は、それができる人だった。
 『エリアの騎士』では原作者から、チーフであった自分には「作品をひっくり返すようなことを言って欲しい」と言われている。(ちなみに原作者や編集者に対して作品をどうするかを最後に意見を言えるのは漫画家である)

Q.週刊少年マガジンにおける、いわゆる原作モノについて教えてください。
A.同じ原作で3話まで複数の人に描いてもらう。その中で一番合う人を選ぶ事になる。編集部で、良いと思う作品に「〇」をつける。そして、一番数の多い人に決定するかをさらにもう一度議論する。「〇」の数もあるが、原作者の判断も当然加わる。
 ちなみに一応、漫画家は新人でも連載を受けるかどうか拒否することはできる。(本誌での連載のチャンスを蹴る新人もスゴイと思うが…) 

Q.勝木光先生の『ベイビーステップ』について教えてください。
A.まったくの新人でデビューして連載が続いているのはスゴイと思う。そういう意味で「期待の新人」でもある。
 勝木光先生と編集者のやり取りは双方向の“キャッチボール型”。新人ゆえに打ち合わせにも、作業にも時間が掛かってしまう。できれば編集者としては、毎週1日は休んで欲しい。というのも、連載は続けるものであり継続的にガンバって欲しいからである。 



 (5)新人に向けて

Q.漫画家志望者がまずすべき事は何ですか?
A.担当をつけること。ココに時間を掛けてもしょうがないので、プロの漫画家を目指すのであれば、なるべく早く担当がつくようにして欲しい。 

Q.持ち込みと投稿では、どのような違いがありますか?
A.持ち込みは直に意見を聞けるが、担当を選べないため相性の問題もあり、見てくれる編集者が自分(漫画家)のことをキッチリ理解してくれる(好きでいてくれる)とは限らない。
 一方で投稿の結果、作家に付くことになる担当者は、事前に作品を読んでくれているので、前向きに付いてくれる人が多い。
 もちろん、持ち込みがダメなわけではなく、それぞれの長所・短所を理解した上で、編集者を上手く利用して欲しい。ちなみに持ち込みは、“何度も来ないと”デビューできない。 

Q.新人の漫画家を見ていて、特に大きな悩みは何だと思いますか?
A.新人の大きな悩みは2つ。
(1)描きたいものを描かせてもらえない。
(2)編集者に言われた通りに直しているのに、まだダメと言われる。
 ただ、この悩みは常にあるものだと思って欲しい。(1)のように自分が面白いと思う作品だけをやりたいのなら同人誌でやればいい。商業誌である以上、誰かを納得されられないとダメ。
 面白くないと、もちろんデビューはできないが、さらにタイミングの問題もある。(たとえば、同じジャンルの漫画が既に連載されている等)厳しいかもしれないが、才能があってもタイミングでデビューできない人もいる。それでもめげないで欲しい。続ける人は、必ず芽がでる。
 心が折れにくいか、心が折れてもスグ復活する人が残る。 

Q.漫画家に必要な要素には何がありますか?
A.漫画家には、カメラマンとしての能力(構図)、それをどう並べるのかという能力(演出)、ストーリーを考える能力(作家)、絵を描く能力(画家)、スタッフを抱える・動かす能力(経営)など非常に多様な能力が要る。
 とはいえプロの漫画家で、すべて持っているような人は、まずいない。新人なら、なおさら。なので、自分には何が足りないのかを客観的に見て欲しい。
 たとえば絵は得意でストーリーがダメなら、(1)「いい原作者はいないですか?」と編集者に聞く、(2)「こんなにいい原作があるんですよ」自らアピールする等して欲しい。
 絵にしても、漫画家である以上、必要ではあるが、器用であれば絶対にイイというものでもない。
 構図は、真似をするのが上達の早道。そのうち、オリジナルが身につく。(ただし絵をそのまま使えとは言わない) 

Q.どれくらいのペースで持ち込めばいいですか?
A.編集者には仕事の優先順位があり、だいたいは売れている作品を優先することになる。新人の優先順位は低く、その中でもデビューの有無で違ってくる。それなのに遠慮しがちな新人が多いのは本当にもったいない。
 『ダイヤのA』の寺島祐二先生は昔、アシスタントをしながらで必ず毎週金曜日にネームを1本出すと決め、必ず一言だけでも編集者からコメントをもらっていた。編集者は20〜30分ほどあれば、だいたいの判断はできるので、寺島祐二先生は、それだけの時間を編集者から確保していた。編集者も、そこまでやられれば見ざるを得ない。編集者は努力している人にはダメとは言えない。
 もし本当に編集者の時間がないようであれば、そのときは他の時間のある編集者に見てもらえるようにお願いするといい。編集者は、新人の原稿を前向きに見てくれる貴重な人なので、とりあえず、この人を面白いと言わせるには、どうすればいいかを考えてみて欲しい。もちろん一回見せただけでは厳しいので、何回もくり返す事になる。

 Q.雑誌のカラーは意識した方が良いですか?
A.その雑誌でのジャンルの割合などは考えて欲しい。敢えて異なるカラーの作品を出す手もあるが、そこには戦略と勝算が必要。カラーが違うものは、門が狭いのも事実。
 ただヤングマガジンの桜場コハル先生の『みなみけ』は本来、雑誌のカラーとは違うが、ヤングマガジンの読者が毛嫌いするほどでもないので、逆に目立つというのを狙っている。そういう例もあるが、推奨はしない。
 野球やサッカーは読者に対して説明不要なので、やりやすいため、常に雑誌として連載作品を切らさない傾向にある。これは週刊少年マガジンのカラーでもある。

 Q.今、週刊少年マガジンに足りないと思う作品は何ですか?
A.絶えず変化するものなので、あくまで参考程度にだが、手に汗握る作品が多いので、そればかりだと読者は疲れてしまう。なので、間にホッとするようなものがあれば…。後は格闘モノや不良モノ。不良モノは今やると“古典”になってしまうかもしれないが…。いわゆるダークなヒーローが最近の週刊少年マガジンにはないのかもしれない。 

Q.プロになるには年齢は関係ありますか?
A.週刊少年マガジンの場合、若い方が重視するが絶対ではない。ただ経験則的に若い人ほど物事に対して柔軟に対応できるのは確か。

 Q.漫画家になれるかどうかは何によりますか?
A.一つは、作業量をこなせるかどうかに掛かっていると思う。スピーディにこなす能力は必要。そして、素早くこなせる方が得。というのも考えたり直す余裕があり、反省もできる。さらには休む事もできる。

 Q.デジタルでの作品づくりについては?
A.デジタルは良いか悪いかではなく、作品の武器になっているかどうか。単に楽をしたいだけなら失敗する事も多い。



 
(6)講習会参加者の個別作品指導より

Q.作品の題材はどのように選べよいのですか?
A.好きな人、好きなもの、好きな事を取り扱ってみるといいかもしれない。
 たとえば好きな人といっても、わからないことがあるはず。わからないからこそ興味があり、逆を言えば全てわかっていればむしろ興味はなくなると思う。その「わからない」部分に色々と想像の余地があるので、ぜひ好きな人をモデルにしてみて欲しい。(たとえば、この人には〇〇して欲しい等) 
 「キャラクターを立てる」というのは個人的な発想から出てくるが 、それは個人的に好きなもの(興味のあるもの)等から出てくる。「好き」というものは人によって違う。そこが個性でもある。その自分の「好き」を他人に知らしめてやるという意識を持って欲しい。
 逆に、みんなにとって良かろうというのをやりすぎると、一般的過ぎて、読んでいる方は退屈してしまうという面もある。作品を描く際、あれこれ論理的に考える必要は確かにあるが、スタートは自分の感情(好き等。別に何かへの怒りでも構わない)からにして欲しい。

 
Q.新人が作品で求められているものは何ですか?
A.新人に求めるのは“作品に込められたメッセージ”。(こういうことを他人はわかってくれない!等。そういうものを盛り込む人の方が伸びる)メッセージ性のない作品も確かにあるが、それは新人には求めてはいない。(また新人は「味」とか「ひねり」とかだけで勝負しようとしない方がいい。) 自分の好きな事や面白いことを伝えられる人は他のアイディアでもできるだろうと編集は判断する。それは作品そのものの良し悪しよりも重視する。
 新人は話よりも絵を見る。話は極端な事を言えばステレオタイプでも構わない。新人の作品は、内容をどう読者に伝えられるのか等、表現力が見たい。 

Q.作品の“見せ方”は、やはり重要なのでしょうか?
A.どういうストーリーにしようか考えたら、後はどう派手に(印象的に)見せるか、つまり見せ方を考えていくことになる。見せ方で同じストーリーでも全然面白さが変わって来る。客観的な見せ方のみになってしまうと、他人事すぎて読者が入り込む余地がない。主人公が完全に自分以外の誰かになってしまう。もっと自分の思い入れのある人を主人公にして欲しい。 

 

以上です。

上記の内容など、本講習会に関するお問い合わせは
tokiwaso@newvery.jpにお願いいたします。


 
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